2019年7月20日土曜日

興行論のようなものを試みに③ 名画座的アプローチ

東宝特撮、といえばゴジラを初めとした怪獣映画を筆頭に
SF映画、戦争映画がすぐ思い浮かぶ。
外部制作および共同制作ばかりだが、80年代以降はホラー映画の領域でも東宝系での公開が目立つ。
#90年代の学校の怪談シリーズなど。



特にゴジラ映画については、かつては一部名画座にてまる一ヶ月興行が打たれていたこともあり、
ここらの話は、古老の特撮映画マニアやオタクからは特によくしられている話でもある。
自分はまだ生まれて間もない話であり、実のところ羨ましいとも思った。
ネット上では、その当時の名画座のチラシをスキャンした画像がアップされており
その中の一つを見ると83年の興行とある。
時期的には84ゴジラに向けての、有志や東宝の田中プロデューサーなどの働きかけもあったろうか。
#よく80年代のオタクと90年代以降のそれとでは気質が違うなどといわれがちだが、
#確かにこうしたムーブメントひとつとっても、部分的には納得できる気もする。


時代は相当に下って2014年。
「ギャレゴジ」と呼ばれる2014年ハリウッド版のゴジラ。
公開直前に、東宝のほうでも飛び道具として初代ゴジラの「60周年記念リマスター版」を興行にかけていた。
ギャレゴジの前売り券を持っていれば500円でみれるという、僅か5年前といえども中々破格の企画であった。
このリマスター版は東宝側でも時間も予算もかけたであろうことが、その映像からもうかがえたが
白黒時代の合成というものがどういうものか、よく判って非常に楽しめた。
これは結構いい企画だと思ったし、2019年の「ドハゴジ」ことKOMでも似たようなことをするのかと思ったらそういうことも無かったのは残念ではあった。

また、同じ東宝の配給でもあるドラえもんの映画も、かつては大人だけを対象とした上映イベントが行われていたと言う。

松竹や東映については寡聞にして知らないが、恐らく似たような企画はやっているはずである。


今回はそうした東宝がらみの映画興行で思ったこととして
「名画座的アプローチで、大手映画会社が過去作品を配給・興行を打つ」
ということがあってもいいんじゃないかということを書いておく。


このアプローチは、今も各地にあるミニシアター(あるいは名画座)や、独立系映画館の企画として
時折昔の映画が上映されている事実を踏まえてもいる。
ただこの手法、法律の問題もあるのか、はたまた各シネコン側の思惑もあるのか
大手映画配給会社側からは殆どといっていいくらい顧みられていないようでもある。
上述した東宝の、ゴジラ映画の事例くらいであろうか。


正直なところもったいないとは思う。
80年代以降、レンタルビデオ及びビデオデッキの普及に伴う映画館の需要の変化もあるのかもしれないが
しかし2010年代においては、「イベントとしての映画」という形で映画館での鑑賞が見直されている事実もある。
いくらPCやスマートフォンで気軽に映画が観られるといえど、それはどこまでいっても
「より気軽に個人的に観られるようになった映画たち」の感覚を越えない。

映画はやっぱり映画館で観るべきものだ。 
そもそもが映像の設計にせよ、音響や各種効果にせよ、それを念頭において製作者達は作っている(はず)。

興行がそもそも「見世物」である以上、その場所でしか味わえないものが欲しいわけだ。
IMAXや4DXが2010年代に日本でも普及してきた事実は、そうした欲求に忠実に応えた結果だと自分は見ているし、
爆音上映や、観客が上映中に声を出して良いというスタイルの上映会がごく一部の都市ではおこなわれていたり
ライヴビューイングという手法がようやく定着した現状を思えばこそ、
「映画館でしか楽しめない、イベントとしての映画鑑賞」というスタイルはもっと評価されて良い。
#一時期、映画というものをクソマジメに、ゲージュツ作品のようなものを見るようなスタンスがあったことを思うと、今は相当軟らかくなったと思う。


今こうした流れの中に、名画座・ミニシアターの静かなムーブメントが出てきているとも言われている。
ただ、それらは30年前と比較しても相当に数を減らした事実もある。
今は地方自治体が企画しての名画座風イベントが行われることも散見される。

この動きは「自分たちが生まれる前の映画を、映画館のスクリーンと音響で観たい」という需要がいくらか影響していると自分は見ている。
実際自分もそうだ。
前述した「60周年記念版初代ゴジラ」を観て以来、古い映画であってもやっぱり映画館で観るほうが楽しめるという実感がある。
その一方、若かりし頃の映画をもう一度銀幕で観たいという欲求も無視は出来ない。
自分も、当時どういうわけか観られなかった「ゴジラVSビオランテ」を映画館で観られたら・・・と思うことは時折ある。
ある意味少年時代の自分の怨念を晴らしたい、とも言える。


現在一部シネコンや独立系映画館では、23時以降の上映も行っていることがある。
最も話題作の上映、かつ土曜日のみという限定はあるようだが。
こうした事例を利用しての過去作品上映というのは、自分が知らないだけで過去には色々やってたのだろうが
もうちょっと大手映画興行会社も手法として検討してもいいんじゃないのか、と思う。

一方で、平日午前~正午ごろ限定で過去作品上映を行うパターンが、独立系映画館では散見される。
映画館側も、配給会社頼りでどうにか食っていけるような時代ではないという事情もあるだろうが
自分としては、「映画は映画館で観るもの」という素朴な欲求を持つ受け手が多いという説を採りたい。
まあ、そうはいっても時間と都合の問題もあるので巧く行かないところもある。
そこをうまく大手映画会社は汲み取ってもいいんじゃないだろうか。


プロスポーツや音楽・各種演劇・演芸興行では絶対に出来ない「過去作品の上映興行」という強みが映画にはある。
あの時のベストメンバーによる、あの時の名勝負や
あの時の名演、名優たちによる芝居や芸というものを、現代に蘇らせられない事実を考えれば判る。

ナンセンスと一笑に付すより、まず素朴な欲求に耳を傾けて、実現可能な企画を実現してみても良いんじゃないだろうか。
幸い今はインターネットによるリクエストも採ろうとおもえば採れる時代なのだから。


で。
来年公開予定のゴジラVSコング。
どうせならギャレゴジの時と同じ手法・・・ つまり「キングコング対ゴジラ」を公開前に興行打ってもいいんじゃないでしょうか。
幸いにも4Kリマスター版もあるんだし。
どうでしょうか東宝さん。 前売り持ってたら500円、なんて贅沢言いませんから。