2017年11月18日土曜日

特技監督・川北紘一

本シリーズのレビューが終了してから、
今まであまり関係のない更新などを行ったりしていたのだが、それについてはそれなりに理由がある。

今は亡き川北紘一についての更新をしようかどうか、ずっと悩んでいたからである。


拙blogにてレビューを継続中に突如アナウンスされた訃報。
もうあれから三年経とうとしている。
様々な感情が押し寄せ、それを飲み込みきれずに辛うじて更新したのを今も覚えている。
三年。
簡単に言ってしまえるほどにその時間は短い。

だがそれは決して、残された人間たちに何時までも立ち止まることを許す時間でもない。
残念なことに時間は動く。 人生は否応なしに営まなければならない。
そうした中で、内面では徐々に感情の整理と、いくらか冷静に川北の仕事ぶりを俯瞰できる
心の準備というものが整ってきた。
いちファンとしては、本シリーズ最大の目玉と言っても過言ではない川北紘一に触れずに終わるのは
あまりにも臆病がすぎるのでは、という気持ちもあった。


前置きは終り。 ここから川北の、本シリーズにおける仕事への感想と疑問を非常に大雑把に述べたいと思う。


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平成VSシリーズの川北紘一率いる東宝特技チームによる、TV特撮ヒーロー。
と、雑に説明されることの多い本シリーズ。
ここからも判るように、本シリーズは川北がかなり前面に押し出されていた部分がある。
つまりは特撮面そのものである。
実際、グランセイザーは巨大戦に関しては他社に引けを取らない映像を見せていたのは事実だ。
ジャスティライザーこそやや凡な映像ばかりになってしまったものの、
セイザーXにおいては前二作を踏まえさらにドラマと特撮映像のマッチングを推し進めた。
映像そのものへの評価は、各作品の各回レビューを見ていただきたい。

少なくとも本シリーズの巨大戦に関しては、おおむね良しというのが、今なお変わらない評価である。

一方ヒーローVS敵の合成などにおいては、「やりたいことは判るんだけどね・・・」という映像も多いのは事実。
グランセイザーの装着シーンや必殺技エフェクトの合成などは毎回やっていたが、これについてはさほど悪いものはないと言っていい。
ただ、戦闘時の移動や必殺技以外の攻撃における合成などは唖然とするものもあったのは事実。
大体第一部(アケロン人編)に多かった。 特に第八話の未加にはガックリさせられたものである。
#これ自体は、東宝作品に多い「状況をモロに見せてしまう」画作りと「比較的ヒキの画が多い」が悪い方向に作用した一例である。

三作全てに、キャラクターの切った貼ったの合成を行ったり、元来ロケーションにない施設をCGモデルで作ってそこに設置するという手法をとったりしているが
前者は実のところイージーな映像が多すぎたという感想がある。
レムルズの跳躍移動のカットや前出の第八話・未加の戦闘シーンに
ジャスティライザーでは遠距離からの敵の進撃、ザコールの大群登場カット、カゲリの一部格闘シーン、ランガやエンオウが敵怪獣に突撃するカット。
セイザーXは第三部で分身する敵のイヤにチープな合成がやや興ざめをおこしたものである。 しかもすぐ倒されたし。

後者はグランセイザーやセイザーXがすぐ出てくるが、グランセイザー第二部における
「海のカットにあとから灯台をくっつける」画の、ほんとにただくっつけただけの灯台の映像に
第三部でもある施設がCGまんまというのも気になった。
セイザーXでも第一部で何も無い海に灯台を合成したり、CGで作った建物を合成するなどしており
そこだけ酷くチープに見えたのが今でも思い出される。

そういえばグランセイザー第四部でも、ある回で敵怪獣に踏み潰されたワンボックスカーのCGが酷い出来だったのを、拙blogレビューで見返したときに気付いて酷く落胆したものであった。
ほんとチープな、ただ絵を圧縮しただけっていう・・・。 申し訳程度に飛び跳ねたタイヤがまた。
あと、第二部のダイセイザー初登場回も、巨大ルシアに噛み付いた後振り回すカットがあんまりで酷い・・・。
#テレビなんだし・・・という意見も判るが、そもそも本シリーズは特撮面くらいしか注目されていなかったわけで。
#そちらでアラが見えるとイヤでも気になるものである。


ジャスティライザー、セイザーXでは装着シーンと必殺技(セイザーXは代表的なものだけ)にバンク映像を導入しており
それ自体はまあ悪くないといえば悪くない。
セイザーXに関してはライオ・イーグル・ビートルの代表的な必殺技以外はグランセイザーと同様で
技を使っているカットにそのまま合成する形を採っていた。
いちいちカプセルの技ごとにバンクを作る必要もないだろうから、いい判断だとは思う。
緊急回避的な役割を果たす、戦闘補助系の技もあったという事情もあったが。
セイザーX自体がカプセルで違う技が使える、という設定を特技側がちゃんと把握していると言えるし、
これは後に述べるが、川北自身の「特技だけで引っ張ってやる」という悪癖が抑えられた結果であるとも言えそうだ。

さらに改めて俯瞰すると、巨大特撮はよくよく三作全体で見ると良くも悪くも安定感がない。
グランセイザーの時は第一部と第三部の一部はともかく、それ以外がちょっと辛いところもあったし、
ジャスティライザーは「ちょっと特撮を頑張った戦隊のロボ戦」という程度には印象に残る巨大戦がない。
ただ、そうした二作の反省と美点を生かしつつ違う映像を作ろうとしたのがセイザーXと言って良さそうである。
何せドラマとの融合を推し進めていたといえるのはセイザーXくらいなのだから。


合成やVFX、CGについては・・・。
基本的にドリームプラネットジャパン以外の会社も関わっているため、慎重にやらないといけない話なのだがあえて大雑把に「最終的にOKを出すのは川北」と捉えた上で話を進める。
川北自身が実際に作るスタッフに任せすぎたのか、先述した一部回などでえらく雑な映像があるのが気にかかる。
ジャスティライザーの、メガリオン登場回における金網越しのカットや
グランセイザーの直人初登場回での陸橋の合成など、わりあい綺麗なものも散見されるだけに惜しい。
コンピューターを使用した各種映像に関してもクオリティの上下動が認められる。
というかこっちのほうが落差が酷いものが多い気もする。

TV番組なのでどうしても特技全体のクオリティ維持は難しいだろうことは想像出来るが
なんというか、高クオリティと低クオリティを行ったり来たりするのが惜しい。
何せ当時の年長視聴者からは「特撮くらいしか見どころなし」とまで言われた本シリーズだけに。


本シリーズの仕事を大雑把に振り返りつつ評価してみると、外からの評価(特撮は良い)に反して
実際は回毎、作品毎でクオリティが変動してしまっている。
全体で見ると確かに右肩上がりっぽいのだが、冷静に細かく見ていくと
グランセイザー:第一部と第三部にピークがあるが、第二部第四部は単調または急降下
ジャスティライザー:全体的に平坦なクオリティ
セイザーX:本編を受けたかのように徐々に右肩上がりでよくなる

というような具合。
仮にグラフ化すれば、グランセイザーでガタガタになりジャスティライザーは技術というかクオリティがサチってるのか横ばい気味、セイザーXでだんだん上がる、という形が出来上がる。


これは恐らく、今までTV特撮ドラマを連続で手掛けたことのない川北の不慣れが響いているのではと思われる。
単発でTVの仕事はやっていたものの、本シリーズが事実上初めて、通しで特技を手掛けた作品群ということになる。
となれば、今まで映画など単発の仕事でしか活躍していない川北にとっては
TVで特撮を手掛けることの難しさをここで実感したのではないだろうか。

本シリーズは毎回巨大戦をやらないが、しかしヒーローの戦いで合成はふんだんに使っているわけで
そちらの指示なり管理なりは本編監督のみならず川北にも色々サジェスチョンはあっただろう。
現場ではどのような形で制作がなされていたのか想像するほかないが、
実は毎週やらなければならない特技全般の仕事は、それを執り仕切る立場の川北をパンクさせていたんじゃないかとも思う。
東映や円谷がどういう形で特撮部分に本編が指示を出し、任せているのか知らないが
東宝というか川北は少し色々背負い込みすぎたのでは、とも感じる。

「特撮魂」では巨大戦演出にも関わる川北の写真が載せられており、キャプションによると
「スーツアクターに任せることもあったが、ポイントとなるシーンの頭とケツだけは指示を出していた」
とのことで、これは合成のための打ち合わせでもあっただろう。
合成や編集においても一家言持っていそうな川北らしい。
結果的に若手育成の面もあるかもしれない。

とはいえ結果三作で終わった本シリーズ。
セイザーXでやっと特撮映像が順当に良くなり、演出部分も進歩してきただけに惜しい。
進歩、というのはやはり本編と協調した特撮映像が出来るようになってきたからであろう。
ジャスティライザーもグランセイザーも本編の内容に対して特撮が良くも悪くも目立ってしまっただけに。

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で、川北紘一その人の評価である。

実は川北存命時から自分の中でどうしても拭えないどころか、不動の評価がある。
それは
「川北一人で暴走する悪癖」
というもの。

「特撮魂」は、そうした川北の悪癖が窺える箇所が二つ出てくる。
ひとつは「ガンヘッド」における川北の当時の態度。
もうひとつが本シリーズ。
拙blogを読むような人は恐らく「特撮魂」も読んでいると仮定して話を進めたい。

前者は、当初監督に予定されていた長谷川和彦への感想と正式に監督となった原田眞人への評価、
なによりプロジェクトそのものの混迷とその結果としての川北の行動がわかりやすいだろう。
後者でも「勝手に脚本変えて撮った」という発言もある。

あとは「大空のサムライ」でも脚本にない殉職シーンを撮ったり、
84ゴジラの時にもメイキングはさておき予告で実際につかわれてない別映画のシーンを流用したりと
よく言えば「客を引きつけるための工夫を、客視点で考えてそうな人」とも言えるのだが
ただこの行き方は、えてして川北自身の自己満足に終わりかねない欠点もある。
それがよく出ているのが「さよならジュピター」「ガンヘッド」だろう。
あとは本シリーズも欠点があらわになっている点がなくもない。


特技監督は特技だけやればいい、とまでは言わない。むしろ特技側がドラマとの相乗効果を発揮した結果
たとえマニアックだろうとメジャーなものになろうと、観客を夢中にさせられるのは事実ではある。
そのために本編スタッフと特技スタッフのすり合わせは必要になってくる。
ただ川北の場合は、相乗効果という部分をないがしろにすることもあったりする。
拙blogでも本シリーズ評のひとつで「特撮だけよければいいかと言えばNOだ」としているのだから、
つくづくこのへんは惜しい悪癖であるといえなくもない。
特にジャスティライザーは致命的であった。 一点豪華主義で物語は成立しない、と思い知らされたくらいに。


本シリーズであればグランセイザーの巨大戦を褒めた回はあるが、だがそんな回も本編部分またはヒーローの戦闘部分で難があったりしたのも事実。
ジャスティライザーはちょっとこじんまりとし過ぎた。 
あまり期待を超えないというか、TVにしちゃあまあ・・・。 くらいの評価というか。 
だがセイザーXについては、積極的に本編と特撮が有機的に作用しあっていると言える回も多い。
演出・文芸チームが少数になったのも大きいと思うが、なにより川北自身もしっかり本編に特撮映像面で援護射撃ができていたのが効果的だったと思われる。

実際、セイザーXのほうが特撮映像に関しては褒められる回は多い。
第三話あたりから「あ、前までと違うわ」と実感したくらいである。
ちゃんとドラマやストーリーを踏まえての映像を作って来ているのだから。
#ただ、本シリーズは何処まで川北が本編にも関わっているのか見えない部分があるので、ほぼ想像ではある。
#ジャスティライザーの時に河田秀二が怪獣の案を川北から貰った、という話はあったが。
#先述した「脚本勝手に変えて撮った」という部分からして、ある程度本編をふり回していることはあったろう。


「ゴジラVSビオランテ コンプリーション」における各スタッフの川北評を個人的に総合してみると
良くも悪くもガキ大将的ではあるがやや暴走しがち、というところ。
ただ悪人というわけではないということも一言付け加えたい。
東宝生え抜き、そして特技監督という役職に対して、最低限仕事は遂行しているしその結果の映像にもファンが付く程度には作家性もある。
客から木戸銭を取る「映像のプロフェッショナル」なのだから当たり前だが。
ただいかんせん悪い意味でプライドの高さを感じるフシも感じたが。

あと「オレの特撮映像で客を呼ぶ!」という自己主張の塊というか。
それも上で言ったようなプロフェッショナルの態度としては間違ってはいないのだが、
組むスタッフや関わった作品次第ではまるっきり本編と特技がスイングしてない問題もあった。
要するに、特技だけが頑張ってる結果作品全体が空回りするという。
#この点、つくづく円谷英二は恵まれていたんじゃないかと思う。

セイザーXは、そういう意味においては奇跡的にスイングできた例とは言えそうだ。
あと「ゴジラVSビオランテ」も。



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自分より古いファンから見た川北紘一評ももっと見たいものだが、今のところ川北評をUPしているHPは1つしか知らない。
そこの管理人氏も、「さよならジュピター」評は自分とほとんど変わらないのには驚いたが・・・。
というか川北そのものの評としてもほぼギャップがない。


そしてやや川北には厳しい評価を下してしまったが、それでもガンヘッドも好きだし
本シリーズもなんだかんだ当時は夢中で追いかけてきたという事実は否定しない。
自分が好きになったもの、わけもなく惹かれたものを否定してもしようがない。 
が、冷静になって好きなものを俯瞰することで、より理解も深まったのは事実でもある。


自分以外の川北ファンによる川北評をもっと読みたい。
本シリーズにも言及されていればより良い。
そう願ってこの更新を終える。