2018年12月23日日曜日

TOHO VISION 2021 雑感

「あの東宝が重い腰を上げて世界に進出しようとしている」

という感想の目だった表題のコレ。
自分もまあ似たような第一印象であった。

がしかし。
東宝がWebで公開しているPDFを見るにつけ、その第一印象はあまりに楽観が過ぎていると反省した。
いや、自分含めた受け手各位よりも東宝が楽観的な気がしてならない。



過去には円谷英二在籍時に特撮SF映画をアメリカへ輸出することで外貨を獲得していた時代のあった東宝。
その後日本でも香港映画の上陸や、ハリウッドの大作映画群の相次ぐ上陸などもあって
日本の映画界が方向性を見失った時代があった。

あくまで日本だけにマーケットを置く日本映画にとって一番の脅威は、外国映画の上陸・その興行の成功である。
少なくともスターウォーズの初公開時以降、日本の映画関係者などはこれに頭を悩ませていただろうことは疑えない。

いくら洋画系のラインを持っていようとも、本体である東宝や東映、または松竹などの映画へ足を運ぼうとする観客がどれだけ流れてくれるのか。
漁夫の利といえばセコくも見えるが、しかしそのあたりの方向性を決めあぐねていたのではと言えなくも無いのが80~90年代なのだろう、と自分は思う。
一つの手法としての、テレビ作品の劇場版という道に活路を見出してからは混迷に拍車がかかったのでは、とも。


東宝は戦前からのライバルである松竹や、戦後勃興した東映と違って
いち早く自社製作をゴジラ以外打ち切ったことが映画ファンからはつとに知られる。
その代わりに不動産事業を強化しつつ、映画館を集客の見込める土地に建て、
興行主としては東宝のイメージに沿う程度の番組を数多く配給することで
映画会社として辛うじて永らえつつ、日本映画興行のトップに君臨することとなる。

が、そんな東宝でも当然、主にアメリカから上陸してくる大作映画たちと渡り合うことについては
その時代ごとに頭を痛めただろう。
84ゴジラの時にはグレムリンとゴーストバスターズが被ったことを思うと
そしてその後も度々ハリウッド映画の猛襲に見舞われたことを考えると
世界戦略という部分については東宝内部でもいくらか検討はしていたんじゃなかろうか。


何せ関連商品を世界で売り上げれば莫大な利益に繋がる可能性も出てくる。
レンタルソフトによる収益も侮れまい。 今の時代ならオンラインで映画を購入して
PCやタブレットなどの端末で手軽に見られるのだから、より映画と言う商品が身近になったと言える。

恐らく東宝以外の会社も検討はしたはずだが、しかし現実的には一番世界進出に近い位置に居るのも東宝であることは疑えない。
何せ「ゴジラシリーズ」「君の名は。」を擁している現在においてはこれの勢いを持って
海外への興行・商品戦略を繰り広げるのは強みであろう。

とはいえ。


その二つしか目ぼしいものがない、とも言えるのが現在の東宝の辛いところだ。
確かにゴジラシリーズとして括れば、キャラクターの認知度を考えれば充分人気は出るかもしれない。
「君の名は。」も、アジア圏中心にヒットを飛ばしたという話を聞く。
しかし後が続かない。   というふうに見える。

「君の名は。」は実写映画化を予定していると言う。
ゴジラシリーズも、ハリウッド版二作が終わって以降も国内産で何かをやると聞く。
その上で、新しいキャラクターの企画・発信をするために
企画力の強化(プロデューサー層の確保もだろうが)、クリエイターの確保を掲げているとも。

さらには既に東宝で手掛けた番組企画を、アメリカや中国でのリメイクにおいて企画当初から東宝も関わることで
東宝の取り分も確保しよう、というしたたかさも感じる発表ではあった。


しかしゴジラと「君の名は。」はまあいいとして、問題は「企画力の強化・クリエイターの確保」。
これはハッキリ言わせて貰うが、来年と再来年の二年間でコレというものを打ち出せない限り
相当に厳しい戦いになるのではないか。
これは、既に他社で実績を挙げた監督・脚本家・その他スタッフをかき集めて
「これだけの人間を用意しました」というのでは、ダメだ。
あくまで東宝が主体となって、若手を発掘していくことに意義があると考える。

東宝と言う会社は、一般的にはピンと来ない人が多いようだが
TOHOシネマズも関わる学生映画祭や、不定期ながら何かしらの形で映画のコンペを開くことで
次世代の映像作家ないし日本の映画文化を下支えし、発掘しようとしている事実もある。
特に学生映画祭は10年以上やっているものでもある。

そこを踏まえると、来年度2019年から2020年度までの2年間が、本当の意味での試金石となる。

東宝が今まで、自主的に映画製作に関わらなかった代わりにいかに企画から関わっていったのか。
東宝が学生映画などのコンペに関わってきたその内実すら問われよう。
そうでなくとも、今までは一等地を数多く所有していたことが国内での興行の強みになったと評される東宝だが
いざ海外への進出・・・ もっとも、自社で完全一貫制作して流すわけではないものの・・・ となれば
そのセオリーは全く通用しない事実。
となれば、「日本の東宝が提案するキャラクターや映画興行の企画」だけで勝負せざるを得ないわけで。


そしてなにより、この更新前半で長々書いた日本映画興行の概観を思えば、
日本人にしかウケないものだけ創っていた日本人の企画が、海外でどこまで通用するのか?
という、本当の意味で日本の創作物の真価も問われそうな状況にもなっている。

自分自身、ゴジラが海外でも人気キャラクターであることだけは知っていても
どのように受容されているのかまでは残念ながら判らない。
それゆえ不安も大きい。

だが東宝はあくまで世界へ目を向けたのだ。
当然アメリカや中国と映画企画の段階で組むということは、それぞれの国民性へのアジャストも余儀なくされよう。
そうした中で、どこまで日本人の感性で作っている部分を織り込めるのか。
説明を求める国柄であるアメリカや中国、そして今回発表では触れなかった欧州圏・インドやタイ、フィリピンなど広範なアジア圏などを視野に入れるにしても
日本人が最も苦手とする「説明」も、今後は積極的にせざるを得ないのだ。
日本人同士ならナアナアで済ませて大体のところで理解しあえたとしても、
それは海外に出れば通用しようはずがない。
ことに創作物においては一番、日本のクリエイター各位が苦手とするものだろう。


まあ、熱くなったので話をもどす。

自分自身は楽観的にこのTOHO VISION 2021をもろ手挙げて賛成し応援するものではない。
むしろ「本当に大丈夫なんだろうね?」くらいの気分が強い。
仮に海外への進出に、失敗という判断を下したとしても、受け身をきちんととって次の戦略を立てられる体勢を整えられる状況くらいはあってほしい。
来年再来年、この二年次第で自分の態度は変わろう。
大賛成か、消極的賛成か、反対か。

まあ、そうはいいつつも結局2021年以降に何をどうしたのかをお出しし、それを我々受け手側がどう評価するのかが全てになるが。



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最後に。

PDFを見ると、キャラクターの創出をポイントに挙げているところから察するに
東宝はどうもディズニーあたりを仮想敵のように見做しているような気もする。
何せ90年代以降は日本でも人気の高いディズニー映画が度々出てきているわけで。それぞれのキャラクターの認知度も高い。
#ミッキーマウス頼りじゃなくなった、という意味。
それだけキャラクター創出という意味においてはディズニーは強いと言える。

しかるに東宝においてはゴジラしか居ない。
キングギドラ、モスラ、ラドンを入れたところで4つ。
だがこれは、ディズニーに当てはめたらミッキーマウスとドナルドダック他みたいなものである。
これは今後の展開にやや影を落として居そうなところがあるのだが・・・。

スタジオジブリ? 
しかし今尚後継者問題がくすぶっているあの会社に頼るほど東宝も油断はしていないだろう。
#そもそもあまりキャラクターで売る作品作りをしてる印象もないと言うか。
ポケモン頼みというのも、元が別の会社のキャラクターなだけに苦しい。
果たして東宝は、2020年代に「世界にも通用するかもしれないキャラクター」を作り出せるのだろうか?

クリエイターの発掘という点においても、多分東宝は目星を付けては居るのだろうが
すくなくとも彼らの作品を来年度・再来年度にお出ししないとこちらも判断しかねる。


そして何よりも、テレビにはノータッチでもある。
そうなると当然、特撮ドラマをやるほどの余裕はなさそうと言っていい。
まあこれはしょうがないわな・・・。



<2019/01/25追記>

この記事を書いた2週間ほど前に、「GEMSTONEクリエイターズオーディション」なる公募が始まっていたことに、年明けになって気付いたわけである。
第一回はゴジラをテーマにして様々のものを募集するとのこと。

ゴジラで公募、といえば自分の世代なら「VSビオランテ」の時のシナリオ公募を思い出す。
が、今回はシナリオは無し。
音楽やイラスト、映像が三つの部門としているようだが
そもそも怪獣モノ、しかもゴジラであることを考えるとハードルは異様に高い。


しかし、東宝としては恐らくそうしたハードルをモノともしない才能を呼び寄せたいのだろう。
ゴジラに新しい色を追加できるようなクリエイターを募ろうということか。
ゴジラやそれに関係するメカや怪獣を使い、または新怪獣などを作りつつ
それまでの作品とも違うものを打ちだす。

全くそれまでのシリーズを無視して気ままに作るのか、逆にそれらを踏まえるのか。
大きな選択肢からさらに枝分かれする様々を思うと大変だろうが、いずれ生まれるであろうモノを楽しみにしたい。