2021年5月1日土曜日

【4】東宝の迷走・その軌跡

 本書において、本シリーズの製作委員会内における幹事社として登場する東宝。

実際の製作に関してはほぼGEが主体であり、更にテレビ局であるテレビ東京と

広告代理店の読売広告社からも代表者が出ており、総勢4名による多数トップの状況が生まれている。

#ここにコナミが全く入っていないのが大きな謎でもあるが。



この時の東宝側プロデューサーの苦労はいかばかりか。 軽くさらってみる。


グランセイザーの石井信彦プロデューサーは、GEから企画とスポンサーを持ち込まれた頃から本格的にかかわるようになる。

GEが持ってきた企画の修正や練りこみに協力しつつスタッフも石井経由で集め、陣容がある程度固まるものの

文芸側の何かしらのトラブルによる製作のゴタゴタが明るみに出た結果、スタッフの逐次投入によってどうにか間に合わせるという事態に陥る。

このあたりはGEが関わっている件であるが、石井側も製作の遅れを取り戻す為に苦心していたであろうことは間違いない。

実際グランセイザーでは、ペンネームで自らも脚本を手掛けており、キャラクター造形(命名)にも携わるほどに

本作プロデュースにおいては石井の色が色濃く出ているとは言えた。


なおこの時第18話までは大川俊道・石井博士(石井信彦)・園田英樹・古怒田健志の四人で回していたのだが

19話以降更に四人追加され、本作の文芸面から起因した製作の混乱がここで垣間見える。

そしてこの混乱の後遺症… 文芸・演出側の多さが、次作ジャスティライザーでも継承されることになる。


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そしてジャスティライザー・セイザーXにて「統括プロデューサー」という肩書で登板する釜秀樹プロデューサー。

前作は管理職として携わっていたことも本書で明らかになっているが、実製作はジャスティライザーからとなる。


ジャスティライザーではGEが製作の主導権を握っていたようで、この辺は稲葉一広の発言からも窺える。

しかし、第一話クランクインから1か月程度経って、当初の設定が大幅に変わり完成作品とほぼ同じ形(ダルガの登場など)に変化したあたりから

…要するに撮影に入ってから企画側から、設定他の変更が相次いだことが本書で明らかになる。

シロガネも当初は3人(グレン・カゲリ・ガント)の合体から澪を介したジャスティパワーのグレンへの集中→シロガネへの変化という形に変わっていたり

「(ジャスティライザーが)星神獣に乗れるようにする」という意見も出ていたなど、企画側から現場側までの変更の連発と混乱が稲葉の証言により明らかになっている。

実際、シリーズ構成の稲葉一広による提案及び設定の交通整理が行われてもいたと語られる。


しかし釜はじめGE・テレ東・読広側スタッフも「会社を背負って」意見を出し合っていたものの、それを美味くまとめ上げ整理する段階で

現場に投げてしまったように見えるし、本書を読む限りではそうとしか読み取れない。

この時は川北からも独自に企画が来ていたこともあってか、特に釜は苦慮著しかったことであろうか。

そうして、ジャスティライザーは混迷のまま終わることとなりセイザーXへバトンタッチ。


ここでは釜の発案により「東宝をはじめとした四社全てが同じ方向を向かない限り、話を進めない」と方針を決定付けている。

そのうえでまず三作目…のちのセイザーXは「時間モノ」とすることに決定し、

GEが招聘した林民夫を交えた肉付け・構成が行われていく。

この時も前二作同様に設定の変更は繰り返されたが、本書を見る限りではセイザーXへタイトルが決まってからはあまり大きな変更が行われていないように見受けられる。

これこそが釜の言う所の「四社すべてが同じ向きを向かない限りOKとしない」という方針の、もっとも大きな効果であったろう。

#もちろん林民夫と河田秀二の二人が巧く作用していたことが大きいのだろうが。

そして四作目は企画だけを残し、三作で本シリーズは終了する。


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こうして軽く概観すると、セイザーXで製作体制が企画レベルでやっと固まったことが見て取れる。

これを別の角度で見るならば、グランセイザーからのゴタゴタをジャスティライザーでも引きずった上に悪化させた末の開き直りとも見れる。

それ自体は東宝だけの問題ではないものの、プロジェクトの舵取りという部分ではGE以下関係企業をコントロールしきれなかったとは言えようか。

だからこそセイザーXで先述した方針を進めることとなったのだろうし、それは巧く機能したからこそ例外的に高く評価された作品たりえた。

製作委員会形式であれど、幹事社がある程度は強力なリーダーシップを執らないと迷走するばかり。

そういう教訓は少なくとも釜にはあったのかも知れない。


実際難しい状況でもあった。

何せ東宝自体ヒーロー物のノウハウが断絶を繰り返しているような体たらくであり、

GEは事実上初の特撮ヒーロー物の製作を手掛けることになるし、

文芸・演出家も過去に東宝やGEとかかわった人間達を搔き集めないと形が整わないような始末。

この逆風の中、東映と円谷がツートップの特撮ヒーローにまた乗り込もうという東宝には

相応の苦労と苦難と、苦行とも言える製作が待ち構えていたのは致し方がない。



本書では、本シリーズの終焉について触れた項目で釜がその無念を改めて表明している。

「プロジェクトとしては最初から厳しかったし、一作目から万々歳な結果ではなかった」

「(セイザーXはコナミ他に無理を言って3クールにしたが)ちょっと売り上げが持ち直しただけでは四作目につなぐことは無理だった」

しかし、当時の述懐といえどこうも述べる。

「東宝のヒーロー物はこの方向(セイザーX)でいいんじゃないかという所まで手ごたえは感じていた」


その後、両プロデューサーはそれぞれに違う現場で映像業界に関わっていく。

特に釜は、本書曰く「ゾイドワイルドZERO」「アースグランナー」の製作に携わっていく。

アースグランナーが、タカラトミーなりの戦隊ヒーロー風アニメヒーローである所などは中々に面白い符号でもある。

釜にクローズアップしてみれば、本シリーズ当時終始苦しめられたバンダイ・東映コンビの戦隊シリーズへの意識も垣間見える。

#あえて似せてきたのは色々疑問もあるが、既に放送は終わっているのでこれ以上は言及しない。


釜が言うように「東宝のヒーロー物の方向性」が定まりかかっていたところで10年以上東宝はヒーロー物から遠のいている。

本シリーズに携わる前提条件として、スポンサーが必須であったことからも判るが

特撮ヒーロー物の時点でメインスポンサーになれる企業がまず限られているし、ヒーロー物という部分を外しても

特撮ドラマという物が金食い虫であろうことは受け手側からも察せられる為

今の日本の経済状況を考えると、よほどの奇特な会社か何かしらの好景気が今後訪れでもしない限りはまあない、と言うのが現実的な見方だろう。

#バブル経済期とされる88年に東宝が旧タカラと組んでサイバーコップを作っただけで終わった事実を考えてみていただきたい。

#さらに言えばガイファードも格闘ゲームブームの安定~低迷期に差し掛かる頃、かつ家庭用次世代ゲーム機のムーブメントが安定してきた頃だったし

#本シリーズに至ってはコナミの音ゲーやTCG、アーケードの麻雀通信対戦がヒットしていた好況を踏まえての玩具事業への進出という流れがあってのことだった。


幻想は自由だが、頭は妄想まみれ。

復活を夢見るオタクは情報のコードだけ食って生きるもの。