2015年4月20日月曜日

ジャスティライザー中間総評:コマンダーアドロクス編&魔神ダルガ決戦

ここでは、「幻星神ジャスティライザー」第三十四話~第五十一話までをおさらいしつつ
中間総評を行う。


【キャラドラマの深化と、ストーリーの雑さ】

最終シリーズでは、ストーリー面およびドラマ面においてキーパーソンとなったのが神野であった。
前シリーズ終盤から出自の秘密が出始めていた神野だが、
ここではライザー星人の生き残りであるミラによって、自分がライザー星の騎士・リゲルであること
そしてさらに終盤では恋人であるマイア姫との記憶も蘇るなど、キャラクタードラマの面では描写が多い。
その上、ストーリー面から見てもジャスティパワーと同等の力を持つライザーパワーを持った戦士であり、シロガネと同じ力を持つクロガネへの変化も終盤 ・・・唐突さも否めないが出てきており
ダルガの狙いであるジャスティパワーとライザーパワーの掌握という目的にも絡んできたため
実際のところ本作最大の重要人物と化しているのがこの神野だ。

また、ライザー星が実は地球と兄弟星でありジャスティパワーとライザーパワーもまた同じ力であることは、ミラによって改めて知られることとなるのもここから。
話自体は既に前シリーズの終盤・ハデスがシロガネ相手に語っていたのだが
全員が知ることになったのはミラ登場回である。

そして、ジャスティライザー側のカップリング的な要素がさらに深まった。
お互い直接言っているわけでもないが、翔太とユカ・真也と澪が相思相愛になったのはこのシリーズ。
ここらはずっと積み重ねていったおかげもあって、違和感はほとんどない。
正直な話、他社作品の恋愛ネタと比較しても地道にしっかり描ききったんじゃないだろうか。
三角関係などの目を引く展開を使わなかったせいで、これに関してはスッキリ見られるものになっている。
ただし・・・。

恋愛ネタを含めた青春ドラマ的要素が、いまいち足を引っ張っているのが難点。
上記の二人だけでなく、健一の恋人や神野と麗香などやけに男女のコンビが目立つ。
神野と麗香は恋人同士と言うほどの仲でもないが・・・。
河田脚本回は特にくどく提示しているせいで、正直食傷した視聴者も居るんじゃないかと思う。
#それ以前に本作自体が地味な展開が多いので、まるで気にしていない人もいるだろうが・・・。

そしてストーリー展開的な部分でも、そうした青春ドラマの味付けのせいで妙に印象が薄くなったのが辛いところか。
翔太とユカのすれ違いが描かれた第四十二話や最終決戦近くなど、ヒーロー物としてのクライマックスより
カップルとしてのドラマを優先してしまったせいで、今二歩くらいのめりこめなかったのは事実。
ちょっと甘くてくどいドラマという風に感じた年長の視聴者も居そうではあるし
自分も見返して流石にコレは・・・と思ってしまった。


ストーリーといえば、前作グランセイザーでも重要な要素として機能した国防省がやっと本格的に現われる。
第四十四話から登場した九条は、僅か二話でその味のあるキャラを提示できたにも関わらず
第五十話までの登場で終わってしまうのは実に惜しいといわざるを得ない。
というより、国防省の人間を出すのがあまりに遅すぎる。
これも、せめてゾラ編から出してればなあ・・・。 九条なんて源太郎並にいいキャラしてると思うんだけど
似た傾向とも言えるし、ちょいともどかしいところはあるか。

九条が五十話でつぶやいた「大人の本気を見せてやる」も、数話程度しか出ていないため
なんだか空回りしたセリフに思えてしまうのは悲しいところだ。
それ以前にも国防省の戦闘機など出てきたが、やられ役で終わっちゃってるしね。


ストーリーとしては、ダルガがジャスティパワーとライザーパワーの両方を手に入れて
全宇宙を支配するというのが大きな柱となっていたはずなのだが、
ライザーパワーを吸収してクロガネになったあたりでどうでもよくなったのか、普通にシロガネと
決戦を繰り広げるようになってしまっている。
このあたりの雑なストーリーラインが、最終シリーズのアキレス腱となってしまった。
せめてライザーパワーとジャスティパワー両方を入手することで全宇宙を制覇、という当初の流れを踏襲した展開なら良かったのだが
片方を得ただけで満足してしまっているダルガには首を捻る。

もっともそれ以前に、二つの力を得たことでどうして全宇宙を支配できるのか?という説明が弱いのが微妙なところではあるが・・・。


【ライザーパワーの扱い】

このシリーズでは、ジャスティパワーと同等の力を持つライザーパワーにまつわる謎も
ストーリーラインとして提示されていた。
これは同時に、神野=リゲルの記憶が蘇っていくドラマとも密接に関わっていった。

同等であれば、やはりジャスティパワーのように地球上からその力を分けてもらえると思えるのだが
既にライザー星は滅ぼされた後であり、そうなると力は何処から来るのか?という部分は気になるが本編では特にそこに関する描写はなかった。
神野のライザーストーン自体にあるライザーパワーだけで、デモンナイトになったりしているのだろう。
ちなみにジャスティパワーを地球から分けてもらってる云々については、度々澪が自然の中から
ジャスティパワーをクリスタルへ吸収している描写がなされているためそう判断した。


そして、ライザーパワーにもジャスティパワーの化身たるシロガネと同じ戦士がいるのではないか。
終盤はこれがストーリーのクライマックスに差し込まれることとなったのだが
そうなると、澪のような存在が居ないといけない。
しかしミラは死に、マイア姫も既にこの世に居ないとなると――――――

何故か麗香。
本編でも神野自身に「何故かはわからんがお前にスターリングが反応している」と言わせてしまっているのは
イヤミな見方をすれば「とにかく何も言わないでくれ。そういう展開にしたいから」と読み取れてしまう。
そういう展開、というのは麗香がライザーパワーを増幅・放出する役割を担うということだ。

本作でキャラクター的に最後までワリを食った女、それが麗香だろうか。
澪の近習という以上の意味づけがない麗香には、ライザー星の末裔という設定くらい持たせてもよかったはずだが
本編ではもちろんそんな描写もなく、ただただ「とりあえず麗香」みたいなノリでこの役割を振られてしまっているのが物悲しい。
一応スターリングを手渡される回で、近習としての自分の立場の無さを描いたドラマもあったのだが・・・。
やっぱり麗香に裏づけもなく持たせたのはスタッフの失策だったんじゃないだろうか。


【ジャスティパワー】

そして今シリーズではジャスティパワーの能力がさらに拡がっている。
死者を蘇らせたり、敵基地へ侵入できたり、あげく巨大化したり。

巨大化についてはまあクロガネが巨大化できているのだから別に・・・とも思う。
#ハデスは自ら巨大化できていたからダルガも巨大化できるんじゃない?というのもあるが。

とはいえ万能パワーになってしまっている点は苦しいものがある。
ユカを蘇らせた回でもそうだが、ハデス戦艦内に何故か入り込めた澪たち女性陣という展開も首をかしげる。
これは一応ジャスティパワーの効果として見做したが、それ以外にハデス艦内に入れる道理が見当たらない。
ストーリーを強引に進めるためのネタにされてしまっているのは、いくらなんでも雑にもほどがある。
#もっとも過去の他社作品でも、こうした不思議パワーが終盤ストーリー上のキーアイテムとなることは珍しくはないのだが・・・。
#あとはキャラドラマ上でのいち要素としてチラっと出てくるくらいか。 大体初期回で描写されるが。


最終回、破壊し尽くされた街を修復するあたりで流石に苦笑いした年長の視聴者も多かったんじゃなかろうか。
流石にこれは自分もフォローのしようがない。 大団円のための描写としては仕方ないかもしれないが。


【敵の希薄さ】

敵であるダルガとアドロクスはさらに薄味になってしまっている。
アドロクス自身はオカマキャラで、動作なども一見コミカルで印象に残りそうだが
実のところ、表層的なだけで「ああこんなのいたっけ?」というキャラになってしまっている。
一応策略家的側面を打ち出した幹部なのだが、部下に失敗を押し付けるなど
前シリーズのバッカスをよりタチを悪くしたようなキャラクターとなった。

そしてボスのダルガ。
放送中から感じていたが、ボスを変えてしまったことに関してはやはり首を捻ってしまう。
偏見を取り除いた上で見ても、やっぱりボスが替わったことでストーリーラインが一度分断されており
結果積み重ねが何も無いキャラクターをボスとして認識しなくてはならなくなってしまう。
これが、せめてゾラ編あたりで名前だけでも出てきていたらちょっとは違う気もしたが
そうするとハデスの存在意義が薄まるしどうにも辛い。

ようは、ダルガは居ないほうが良かったということだ。
肝心のトリを飾るボスの積み重ねが出来ていない部分を、グランセイザーから引き継いだことに関しては問題として大きい。
ハデスだけで全話引っ張って、ハデスをクロガネにしてしまえばまだ見ているほうも乗れたし
自分自身は現に今でもそう思っている。


東宝側で何かしらの打ち合わせがあったのかは知らないが、いくらなんでも雑極まりない。
ダルガ=クロガネが最終回で「450年にわたる戦いを終わらせる」と叫んでいたが
「お前が言うな」という気持ちすら抱いてしまった。

そもそもライザー星を滅ぼしたのはカイザーハデスだったわけで、ダルガが関与したのは
ライザー星の生き残りの殲滅程度。
もっと言うなら地球に攻め入ったのもカイザーハデスだった。
「自分に成り代わって宇宙支配を目論む愚かな弟よ」と言っていた割には
やっていることはそのハデスの尻拭い的というか、フォロー的にも見える。

#ダルガを出すにしても36~40話くらいで突如現われてシロガネによって退場→ジャスティパワーとライザーパワーの秘密に気づくハデス、という流れがいいかもと思ったが
#このダルガの扱いは東映ヒーロー物で散々形を変えて見られたものなのでありきたり感は強い。視聴者の目は確かに引きやすいのだが・・・。


【演出や描写が足を引っ張ることが増える】

ミラ登場回で改めてライザー星と地球の関係を提示する回といい
殺陣でコミカルな色を出しすぎたり(金的の多用など)、視聴者の集中力を殺ぐ演出が増えたのは
この最終シリーズから。
演出面の問題については、「リゲルの恋人マイア姫」を本編アバンだけでサラリと流してしまったあたりなどの適当さも気にはなる。

しかし特にアドロクスやダルガの根城となった基地が「何処なのか」わからないのが問題だろう。
第三十四話でアドロクスは明確に「ハデス艦」と言っているのでハデスの戦艦内なのはわかるのだが、
第四十話・四十一話で出てきた「神野は敵のアジトを探している」~「敵のアジトはもう消えた」という下り。
元々ハデス艦内に自由に出入りできた人間なのにアジトを探す、というだけなら
「神野がハデス艦をそのまま使っていることを知らないだけ」と判りそうだが、その後アジトが消えたというセリフが入るせいで
アジトというものが何を指しているのかわからなくなっている。

最初からハデス艦内ということであれば、神野は最初から入れるのは道理だが
四十・四十一話が入ったせいで四十八話で神野が艦内に入れたこと自体が意味不明な展開となってしまっている。

なお第四十八話で爆破された基地は、第四十九話序盤にてその破壊された外観が明らかになっており
やっぱりハデス戦艦そのものだった。
河田秀二が何も知らずに四十・四十一話を書いたとすれば致命的なミスだろう。


殺陣については金的の多様がやっぱりアクションへの興味を殺いでしまっている。
コミカルさを入れようとしてかえってしくじっているという悪例であろう。
東宝的な「明るさ・ファミリー向けの陽性さ」を出そうとしては居るのだろうが・・・。
いまいちスタッフ間で、この作品をどういう方向に持っていきたいのか
また、どういう物語の方向性をつけるべきか完全に固めきらずに作っている印象ばかりが目立った。


【特撮は最後まで安定】

前作グランセイザーでは、第三クールから徐々に息切れしだしていたが
本作においては、巨大戦については最後まで一定のクオリティを維持し続けていたと見ていい。
最終3話の一連の巨大戦といい、ザリガン戦などは見ごたえのある回と言える。

とはいえ、安定しきっているせいかグランセイザーと比べると「この回を特に薦めたい」という回は
ほぼ皆無になってしまった。
好意的に見ればそれだけ、クオリティをある一定のところまで維持したまま製作し続けられたということだろう。

生前川北紘一が「特撮魂」で書いていた話として
『毎週作らなきゃいけないのはしんどいと思ったが、見ようによっては撮りおえて後悔が残ったところを次で再チャレンジできる』
『やりようによっては6週くらいかけて徐々に変化をくわえることすら出来る』
というのがあったが、合成やセット含めて細かい試行錯誤をしているであろうことは画面からもよく伝わってくる。
ごく庶民的な民家を並べてみたり、ショッピングモールや遊園地があったり
可能な限り他社作品との差別化を試していたのは見て取れる。

合成は、ザコールを大量に配備するために素材を切り貼りしたりするのだが
落ちる影まで書ききれていないなど、息切れを感じる面もある。